一万年の旅路(ネイティヴ・アメリカンの口承史)

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アメリカ大陸に住むインディアンに語り継がれてきた伝承遺産について、イロコイ族の系譜をひく著者ポーラ・アンダーウッドが次世代に引き継ぐ責任を負って纏め上げた大著。立花隆氏は週刊文春の私の読書日記にて「素晴らしい本だ。…アドベンチャー物語として読んでも面白いが、それよりも、この物語全体は一族の学んだ『知恵』の物語賭して構成されており、そこがいちばん面白い。…一つ一つの教えに含蓄がある。」との書評を記している。

Ⅰ:主な語り…7万年前から1万年前まで続いた最後のウルム氷期に一族が暮らしていた海(海の民)から山(山の民)への移動。そして物見の集団を送り出しながら、「北の西の北」の場所から「北の東の北」即ち北米大陸へのベーリング陸橋を経て旅する海辺の渡りの大冒険を通して一族が学んだ多くの知恵。「今日のことは見えても、目的とその達成に必要なものが何かをはっきり掴めなければ、今日の宿すもっと大きな可能性を汲み取ることができない」という至言に引き込まれる。

Ⅱ:山の語り三つ~草の大海…「子供たちの子供たちの子供たちに生存という贈り物を与えるため」に北米大陸の北西部からロッキー山脈を越えて過酷な旅を続ける東進の歩み。失敗から会得した可能性の二重の輪を歩む知恵(一つひとつの予見にもっと別な解釈が成り立ちはしないか様々な可能性を読み解くこと)。知恵を授かったことへの感謝の象徴としての「3本の鷲の羽」(鷲は明日のまた明日を見通して、様々な可能性を現実となるずっと前に予見する)。

Ⅲ:われらが美しいと名づける川…オハイヨ川の畔での暮らし。今日の豊かさが明日の不足に変わりかねないことを察し、多くの者が「継続」の道に満足しても、必ずしもそうでない者が現れ、彼らこそが「変化」の可能性をもたらし、知恵ある一族に災いを超えた存続の道を拓いてくれるとの世代を超えた一族のDNAが持つ崇高な価値観にただただ敬服。

Ⅳ:東の大海~美しい湖…一族にとって3つ目の大海、即ち地中海、太平洋を経て北米大陸東部の大西洋岸に到達。そして先住多民族との争いを避けるべく遂に見つけた安住の地5大湖周辺。諍いを好まない知恵ある正義と平和な人々として知られた彼らの根本的な活動理念とは、①いかなる判断にも私情をはさまないこと、②己の一族の利益にも目を曇らせないこと、③全ての当事者の利益を公平に釣り合わせること、④平和な道を探求すること。

1万年という悠久の遍歴から一族に累々と語り継がれてきた知恵の数々…日本人と同じモンゴロイドの壮大な旅路を通したロマンと人生訓に溢れる素晴らしい民族史。近代のインディアン迫害という悲劇を想起するにつけ、涙溢れる思いのする普遍的名著として心に留めて頂きたい一冊です。

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