人間性の心理学

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今回は半世紀を超えて人事系バイブルの一つとされる「人間性の心理学」のレクチャーを行います。本書は1954年に米国心理学会会長を務めたA.H.マズロー教授の主著で、私自身にとっても立教大学2年生時の三戸ゼミナール夏合宿で初めて与えられた研究テーマとして思い入れのある教材です。学生時代には活字の解釈だけで四苦八苦(総頁数450のボリュームに圧倒される…)という状態だったように思い返しますが(社会に出てからわかったことですが…)、マズローの長い臨床経験に裏打ちされた社会を斬る鑑識眼の高さに驚くばかりです。

本書は全18章で構成された大著で、その構成を私なりに整理すると、Ⅰ:第1~3章はこれまでの科学批判(アプローチ方法)、Ⅱ:第4~8章が欲求5段階説(本論の動機理論)、Ⅲ:第9~13章では人間の内面研究(自己実現的人間とは)、Ⅳ:第14~18章(マズロー心理学への諸考察)となります。以下、そのポイントを抜粋簡記しておきます。

Ⅰ:現状科学批判…多くの科学において手段と目的の転倒がみられるとの批判から、マズローは何よりも人間の価値を基礎に置いたアプローチであるべきこと、全体的・力動的な理論体系を構築すべきことを提言。私の持論である経営戦略の「人体健康模型図」の基盤であり、20世紀後半の経営学で常識となった全体最適理論のバックボーンにある考え方として有効性の高さが窺えます。

Ⅱ:欲求5段階説…人間が生来持っている欲求を低次元なものから高次元なものへ、①生理的欲求(労働基盤としての職の確保)、②安全の欲求(給与保証等の雇用安定)、③所属と愛の欲求(インフォーマルを含めた良好な職場環境)、④承認の欲求(出世・肩書き等の他者評価追求)、⑤自己実現の欲求(人生最高の究極的な欲求)と5段階に分類。一般的な人間は低次から順番に欲求が満たされて初めて次なる高次欲求へと欲望が移行するとされる有名な普遍的理論。カッコ書きの注釈は社会人として我々が生きていく際の興味の具体例を私なりに例示してみました。

Ⅲ:自己実現的人間…精神病理、脅迫、破壊性などの人間行動の背景を踏まえつつ、それらの敵対的な性質を受容しつつも超越して深遠な対人関係を構築して自律的に生きている自己実現者の特性を分析。因みに、生まれながらの自己実現者は10万人に1人(キリスト・釈迦牟尼等)、我々凡人はⅡ:①~⑤と地道なステップUPの後に到達する領域ですが、「大洋感情」と表現される神秘的経験が自己実現者へと昇華していく契機と思われる点を考慮するにつけ、一般的な人生において本当に第5段階の自己実現の境地に行き着ける人間は数少ないことを付言している。

Ⅳ:マズロー心理学諸考察…第9~11章を踏まえた諸考察(個人と人間の認知、目的と動機づけ、正常・健康・価値等)について改めて解説し、第18章で「積極的な心理学へ」との結論を導き出している。なお、付録として心理学への積極的なアプローチによって生まれる諸問題、即ちマズロー心理学が他に対してどんな影響を与えるかについて概観して本書は締めくくられている。

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